主催者代表・宮下昌也より
【コヅカ・アートフェスティバル開催にあたってのごあいさつ】
コヅカ・アートフェスティバルには、2つのコンセプトがあります。
ひとつは、会場となるアートガーデン・コヅカのテーマでもある「人と自然をアートでつなぐ」。
もうひとつは、「自然・地域・ライフスタイルをオルタナティブ(もうひとつの)な視点で見つめる」です。
このオルタナティブな視点から見つめるというところが理解できると、南房総に多くのアーティストが移住し、活躍している訳が理解できます。
ひと昔前は、都会の業界に売り込んで行くことが、アーティストとして成功への道とされていましたが、今は、それで本当に豊かになれるのか?と多くの人が疑問に思っています。それよりは、より良い環境の中で、家族や友人達と暮らしながら、自給的な発想で自己実現していくほうが幸せへの近道なのではないか?と彼らは気づき始めているのです。
このアートフェスには地元以外にも、関東一円から30名を超えるアーティストやミュージシャンが参加しています。
すべてのアーティストには参加条件として会場に足を運んでもらい、なぜこのような過疎農村地区の荒れた里山を会場にアートフェスをやるのか、ガイダンスを行ってその趣旨を理解してもらっています。
みんな柔軟な感性でこの中山間地の歴史や、コンセプトの意味を理解し、独自の表現を展開しています。すばらしいアーティスト達が集まってくれました。 屋外ステージ作りなどの会場整備も、参加アーティストやボランティアによって進められています。切り出した間伐材など山にある素材を使い、できるだけ持ち出さず、持ち込まず、自分たちの手で。山そのものが展覧会場なので、里山整備も兼ねています。荒れて鬱そうとしていた山がどんどん明るい健康な姿に生まれ変わっています。経済優先の考え方のため見捨てられた里山を、アーティスト達がよみがえらせている。まさに「人と自然をアートでつなぐ」が具現化されていっています。
そしてもうひとつ、このアートフェスの重要なファクターとしてオープンアトリエがあります。長狭地区の8つのアトリエが会期中来場者の受け入れをします。
南房総のアーティストの作品は、ライフスタイルに深く根ざしています。作品を生活と切り離して美術館に飾るより、その作家の生活空間で味わうことで、その魅力がもっとも如実に伝わると思います。 日本はもともと、世界が目を見張るほど庶民の生活の中にアートが生きている国だった訳ですから、自分たちの生活にアートを取り戻すきっかけに、このオープンアトリエがなればと思っています。
こういった発想は、けして新しいものではなく、120年前にイギリスで起きた「アーツ&クラフツ運動」で、日本では「民芸運動」の中で、生活と芸術のあり方が追言されています。ただ、高度成長の荒波が、その発想をあたかもメルヘンのように形骸化してしまいました。高度成長が終わった今こそ、先人の理念が地方発信のアートとして具現化していくかもしれません。
古きものとの融合ということでは、このアートフェスの会期を地元の例大祭とリンクするよう設定しました。お祭りは僕らの生活に残っている、もっとも生きた伝統的アートですから。
このフェスも一過性のものでなく、続いていくものにしたいと思っています。南房総にはたくさんのアーティストが暮らしているのですから、各々をゆるやかにつなげることによって、内外に向けてアートの有用性を伝える機会にしていきたいのです。
クラフトマンの作る質の高い日用品で生活の中にうるおいを加え、野外展示で里山にもう一度人と自然がふれあえる場所を作っていく。ワークショップで子供たちに物作りの楽しさを伝え、ライブで心に豊かさを与える。海の幸、山の幸のオイシイ環境にある南房総にアートが根付けば、本当に豊かな21世紀型のライフスタイルが創っていけると思っています。
最後に、フライヤーのメインビジュアルになっているイラストについて。 このイラストは、「アートガーデンコヅカの未来予想図」として2009年に描きました。どのくらい未来かというと、50年後を想定しています。戦後50年かけて荒れていった里山が、人と自然とのバランスのとれた生態系に戻るには同じ年月がかかると思います。 アートな心=遊び心を持って、そのくらいゆっくりやっていこうというメッセージです。
コヅカアートフェスティバル実行委員会
代表 宮下昌也 2010
【コヅカアートフェスティバル 10年目のご挨拶】
先ずはこのアートフェスティバルを創り上げて来たアーティスト達に、最大の感謝の気持ちを伝えたいと思います。
コヅカアートフェスティバルは、アーティストに来場者と自然をつなぐ役割をになってもらうことを求め、毎年参加アーティストを募集しています。今までに参加したアーティスト達は本当に千差万別で、各々独自のアプローチで森の自然と調和した表現を展開してくれました。中には開催当時から毎年参加し、この森の生態系とより親密になった人々もいます。
フェスティバルの間、森で開催される様々な展示、ワークショップなど全てのコンテンツは、アーティスト達のインスピレーションと行動力で実施され、実行委員会は彼等が伸びやかに表現できる自由な場を作る事に専念しています。
これは、開催当初から提唱している「アートによる里山整備ーー農業林業の手が届かなくなった耕作放棄地に、アーティストが進んで入り、表現する事で、里山をかつてあった人と自然の調和のとれた状態に戻して行く」という、10年前は理想論とされた考え方を、賛同したアーティスト達が当初のヴィジョンをさらに超えて現実のものとしているのです。
アーティスト達のクリエイティビティに呼応して、間伐も少しづつですが進んで来ました。30年前、最も荒れた状態だったコヅカの森はフェスティバルが始まってからの10年で、大きく変化を見せてきました。
また、開催当初アートフェスティバルの重要なファクターとして実施された「オープンアトリエーー長狭地区のアーティスト8名がフェスティバル会期中、自らのアトリエを解放する」は、3・11が起きた事により参加していたアーティストが西日本に移住した影響などで、2年目から変更を余儀なくされ「アートで地域をつなぐ」という目論見は紆余曲折を経てきましたが、地域のカフェなどが賛同してくれたお陰で、毎年学校でも配布されるフェスティバルのパンフレットに地区のアートマップを載せるなど新しい展開が生まれました。
そこから現在は「長狭アートマップ」という独立した小冊子が誕生し、道の駅など観光施設で手に取る事が出来るようになりました。
現在はオープンアトリエと形こそ変わりましたが、金束地区内にある有志が維持するコミュニティスペース・里山デザインファクトリーが第2会場として場を解放、「awanova盆踊り」や毎晩の音楽ライブ「コズカンナイト」が開催されています。今年から同じく金束地区にあるハッカーファームもワークショップ開催のアクションを起こしてくれました。地域のアートフェスティバルとしても、少しづつですが定着して来た事を感じています。
この他にも地域の方々の有形無形の賛同、ご協力にも本当に助けられています。
はじまりは4人のアーティストで語り合った夢のお祭りが、この10年間で変成し、こんなに多くの方に愛されるフェスティバルに成長して来た過程を思うと感謝の念は絶えませんが、「アートによる里山整備」はまだまだこれからなのです。
元々アートガーデン・コヅカの森を開いた時に抱いた構想は50年後の未来です。つまり、アートガーデンフェスティバルはこれからも、まだまだ続いて行く年に一度のアートの祭典です。
もしあなたが長い旅に出て10年後にこの地に戻って来たとしても、夏にはコヅカアートフェスティバルが開催されている事でしょう。その時はまたこの自然と人が奏でる感性の世界を、創造の喜びを、共に楽しみましょう。
コヅカアートフェスティバルを訪れてくれた全ての命に感謝を込めて。
コヅカアートフェスティバル実行委員会
代表 宮下昌也 2019